2ヶ月待ってください_合格体験記に代えて 

合格体験記に代えて

中学入試というのは、不確実性を含む一発勝負ということもありますので、この「合格体験記」もまた個別具体例で、一般化できない部分も多くあることは承知しております。ただ、もし中学受験に向けて日々努力している保護者の方々に何かしらのヒントになれば幸いです。

 

当塾は大手塾から転塾してくるお子さんが多くいらっしゃいます。今回紹介する合格者もまた大手塾からの転塾でした。

2年前のちょうど今頃、5年生のお子さんを連れていらしたお母さんの相談内容は次のようなものでした。「4年生から塾に通っているけど、いま通っている塾で伸び悩んでいるように思う。特に算数で苦労していて、このままでは昭和薬科の合格は厳しいと思うので、思い切って転塾を考えている。」

確かに成績を聞いてみると厳しい状況でした。「分かりました。必ず成績を伸ばしますので、2ヶ月待ってください。もしかすると4ヶ月かかるかもしれません。どうにかします。」そんな風に約束しました。自信がありました。ボリュームゾーンの底上げに必要なことは基本事項の反復と復習の徹底。それを実行させ、小さな成功を体験させることです。

入塾間もなく、6月の当塾での一発目の模擬試験では、案の定ボリュームゾーンど真ん中といった結果でした。ですが、それから8月、10月、12月と着実に成績を伸ばし、2月には偏差値60に到達する伸び具合でした。これには私も驚き、すぐにお迎えに来ていたお母さんに「今回、とてもいい成績でしたよ。ご自宅で何か対策されましたか?」と尋ねると、その場で模擬試験の結果を知らされたお母さんは「凄いですね!対策って言うより、模擬試験に向けて毎日50分勉強しようねって、頑張ったからかな。」と。きっとお子さんの性格をよく知っている母親だからこそ立てられた「戦略」だったのだろうと思いました。

しかし、これまたよくあるように、そこからは成績の横ばいが続きました。偏差値を幾分か下げることもあり、結局模擬試験では80%合格可能圏には届かないまま6年生の10月を迎えました。私からすると、本人は淡々と勉強している印象で、決して手を抜いているわけではありませんでした。実はこの偏差値帯の6年生は、秋以降の勉強の質が一番難しいところなのです。

秋の三者面談でお父さんに家庭学習の状況を伺ったところ「算数の問題を勉強させるときに、ゲーム感覚でルーレットを回し、その番号の問題を解くということをやってます。問題数を決めて、正解だったらちょっとご褒美をあげるとかです。」と。更にはお父さんも一緒に問題を解くというので、頭が下がりました。これもまたお子さんの性格をよく理解している父親だからこその「戦略」だったように思えます。ご家庭での勉強に少しだけアドバイスを呈し、最後まで希望を捨てずに頑張って欲しいと伝えました。10月の後半になり、入試過去問演習で点数が見え始めると、目の色を変えて、過去問に取り組みました。これでもか、これでもかと過去問を解き、時折り分からないところは質問に来ました。寡黙なお子さんで、こちらから「他は大丈夫かい?まだ解決できていないなら、いま解説入れるよ。」と言っても、「大丈夫です。」の一言。おそらく質問に持って来た問題以外は自力で正解に辿り着くまで粘り強く考えたのでしょう。あるいは、お父さんと一緒に考えたか。

私は過去問のみを解きすぎることは、推奨していません。方法論としては間違っているとも思っています。それでも、本人が自主的に取り組むことを優先させました。それで受験勉強に精を出すなら、少々正統法からと離れることも必要だろうと判断したからです。

正統法を強制するより、本人の性格とやる気を重視することにしたのです。正直、一か八かのところはありました。

最後まで「賭け」に出ました。この「賭け」に負けても、本人にとって最善の勝負をさせれば後悔はないと信じるしかなかったのです。

 

 

1月。

興南中学合格、昭和薬科中学合格、球陽中学合格。みごとに3連勝。

お母さんからは「少人数の塾にうつしてよかった。ありがとうございます。」とお礼のメールをいただいたものの、私からするとご両親のお子さんに対する理解があってこその合格だと思っています。

秋の面談でお父さんがお子さんにかけた「先生のためにも頑張って薬科に合格しようね。」という言葉には胸が熱くなりました。受験は利己的になりがちで、他者を慮るゆとりがなくなることも多々あります。この言葉に象徴される、ご家庭での精神的なゆとりが合格の一因だったのかも知れません。